顧客体験価値(CX)は、現代のビジネスにおいて、ますます重要視されています。
顧客が商品やサービスを購入するだけでなく、その過程やサポート体験まで含めて満足感を得ることが求められるようになっています。
この記事では、顧客体験価値向上の重要性や顧客が本当に喜ぶ体験とは何か、企業がどのように顧客満足度を高めて成功してきたのかを紹介します。
顧客体験価値(CX)を高める取り組みを検討している方からは、次のような声が多くあがっています。
- 顧客体験価値(CX)を向上させて競合と差別化したい
- 顧客体験価値(CX)はなぜここまで注目を浴びるようになった?
- 顧客体験価値(CX)の向上に成功した企業や事例が知りたい
ぜひこちらの記事を参考に、顧客体験価値(CX)の向上を目指してみてください。
顧客体験価値(CX)とは?
顧客体験価値(CX)は、Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)の略語で「顧客体験価値」「顧客経験価値」といわれることもあります。
商品やサービスに対して「機能」「値段」「性能」といった物理的な価値だけではなく、顧客接点(購入から使用する過程、アフターフォローまで)を通して顧客が感じる「満足感」「喜び」といった【感情的価値】のことを指す概念です。
顧客が商品やサービスを利用し「もう一度使いたい」「もう一度買いたい」と思われるような満足感・充実感が経験から得られたかという点を重要視します。
例えば、顧客体験価値には以下のような事例があります。
- HPを訪れたときの分かりやすさ、印象がいい
- 店舗のBGM、提供スピードの速さ
- 広告を初めて見たときの印象
- サービス購入後のカスタマーサービスの対応
- 購入後のサプライズクーポンを貰ったとき
- 営業マンの振る舞い、印象、知識豊富により信頼ができた
このような、数々の接点において顧客が感じる「好感度」のことです。
顧客体験価値(CX)の5つの要素
ここでは、顧客体験価値(cx)を高める具体的な5つの要素を紹介します。
感覚的価値(Sense)
感覚的価値は、五感を通じて顧客の記憶に残る体験を作り出す要素です。
ただの心地よさだけでなく「ここでしか味わえない」という印象を顧客に与えることでCXを大きく向上できます。
なぜなら、顧客がその体験を特別なものとして記憶し、他の選択肢では得られない唯一無二の価値としてブランドに対する意識が高まるからです。
例えば、商品のパッケージデザインが使い心地や見た目の美しさを兼ね備え、手に取るだけで「所有する喜び」を感じさせるような体験があげられます。
情緒的価値(Feel)
情緒的価値は、顧客が「心が動かされる」瞬間を生む要素です。
シンプルに「信頼」「安心」を超えて、顧客の期待を良い意味で裏切ることでCXを向上できます。
なぜなら、期待を超える感動は、満足以上の特別感を生み、顧客の記憶に残る体験となるからです。
例えば、旅行中に特別な記念日を迎える顧客に気づき、手書きのメッセージカードと地元の特産品をさりげなく部屋に届けるような心遣いがあげられます。
知的価値(Think)
知的価値は、顧客の「考える楽しさ」や「学びの喜び」を引き出す要素です。
ただ情報を提供するだけではなく、ストーリー性や新しい視点を取り入れた体験を届けることでCXを向上できます。
なぜなら、こうした視点が顧客に「自分だけの発見」を感じさせ、その体験を特別で意味のあるものとして心に刻ませるからです。
例えば、地元の職人が作った商品に込めた想いや制作過程を映像や対話で伝え、顧客自身がその価値を発見できる体験があげられます。
行動・ライフスタイルに関わる価値(Act)
行動的価値とは、顧客の暮らしに小さな挑戦や新しい習慣をもたらし、それが心身の充実感や自己成長へとつながる体験を指します。
企業は顧客のライフスタイルを深く理解し、負担にならず自然に取り入れられる習慣やポジティブな変化を提供することで、生活全体を豊かに感じられる体験を実現できます。
例えば、食材宅配サービスが忙しい方に向けて「時短レシピ動画」と調理済みの食材をセットで届けることで、短い時間でも手作りの楽しさや達成感を味わってもらえます。
このような提案なら、時間に余裕がない方でも、無理せず新しいライフスタイルを取り入れるきっかけになります。
社会的経験価値(Relate)
社会的経験価値は、顧客が特定の集団やコミュニティの一員であることを実感することで生まれます。
ただ「所属している」と感じるだけではなく、「このコミュニティにいることで自分の価値が高まっている」と思えることが大切です。
なぜなら、人は自分の成長や社会での役割を感じることで、特別な満足感を得られるからです。
この満足感が、ただの買い物を超えた価値ある体験となり、顧客とブランドの絆を深めます。
例えば、ブランドの専用コミュニティで個々のアイデアを募集し、その意見が実際の商品開発やイベントに反映されるような仕組みを通じて、顧客が「自分の価値がブランドの成功に影響を与えている」と感じられる体験があげられます。
なぜCXが現代ビジネスで注目されているのか
CX(顧客体験価値)が現代ビジネスで注目されている理由は、主に以下の5つの要因によります。
①競争の激化
②顧客の期待の変化
③口コミとソーシャルメディアの影響
④顧客ロイヤルティとリテンションの向上
⑤データ分析とパーソナライゼーションの可能性
競争の激化
現代の市場は競争が非常に激しく、製品やサービスの差別化が難しくなっています。
価格や品質だけではなく、顧客がどのような体験を得られるかが競争優位性を持つための重要な要素となっています。
CXが優れている企業は、他社との差別化を図りやすくなり、顧客の選択肢となる確率が高まります。
顧客の期待の変化
CXを重視することで、顧客の期待に応え、満足度を向上させることができます。
現代は、デジタル技術の進化により、顧客の期待はますます高まっています。
顧客は、シームレス(スムーズな関係)でパーソナライズされたサービスを求め、迅速かつ効率的な対応を期待しています。
口コミとソーシャルメディアの影響
CXの向上は、ポジティブな口コミを生み出し、ブランドの評判を高める効果があります。
今は、ソーシャルメディアの普及により、顧客の意見や体験が瞬時に広まる時代となっています。
よって、ポジティブなCXは、ネットの口コミなどで広まり、新たな顧客を引き寄せることができます。
一方で、ネガティブな体験もすぐに拡散され、ブランドイメージを損なうリスクがあります。
顧客ロイヤルティとリテンションの向上
良質なCXは、顧客ロイヤルティを高め、リピートビジネスにつながります。
既存顧客を維持することは、新規顧客を獲得するよりもコストが低く、利益率が高いです。
よって、CXに投資することは、顧客の満足度とロイヤルティが向上し、長期的なビジネス成長が期待できるということです。
データ分析とパーソナライゼーションの可能性
データに基づいたCXの最適化は、顧客一人ひとりのニーズに応じたサービスを提供し、満足度を高める効果があります。
企業は、集めたデータを活用して、顧客一人ひとりに合わせたサービスや商品を提供できます。
例えば、過去の購入履歴やウェブサイトの閲覧履歴から、その顧客が興味を持ちそうな商品を推薦したり、特別なオファーを提供したりすることができます。
このように、データに基づいた顧客体験の向上は、個々の顧客の要求に適応したサービスを提供し、満足度を向上させる効果があります。
顧客体験価値(CX)を向上させる重要性
ここからは、顧客体験価値(CX)を向上する重要性について解説していきます。
ブランドの信頼性と評判の強化
CXの向上により、企業はブランドの評判を高め、信頼を築くことができます。
顧客は、一貫して優れた体験を提供するブランドに対して信頼感を抱きます。
例えば、大手コーヒーチェーン店「スターバックス(Starbucks)」は、顧客体験に重点を置くことで成功しているブランドです。
- 快適な環境
- フレンドリーなスタッフ
- 美味しいコーヒーや季節限定の商品
信頼性の高いブランドは、市場での地位を強固にし、新規顧客の獲得にも有利です。
顧客の生涯価値(LTV)の向上
優れたCXは、顧客の生涯価値を向上させます。
生涯価値が向上すれば、顧客は長期間にわたって、商品やサービスを利用します。
また、以下のような機会が増え、企業にとっての収益が増加します。
- クロスセルやアップセルの機会の創出
- リピート購買の促進
- 他人にそのブランドや企業を勧める
このように、CXを重視することで、一度きりの購入ではなく、継続的な関係を築くことができます。
従業員満足度の向上
良質なCXの提供には、従業員の貢献が不可欠です。
企業がCX向上を目指すと、従業員は顧客対応に誇りを持ち、モチベーションが向上します。
満足した従業員は、さらに良質なサービスを提供し、顧客満足度の向上に繋がるという好循環を生みます。
イノベーションを推進する原動力
CX向上の取り組みは、市場のトレンドや顧客ニーズを敏感にキャッチし、イノベーションを推進する原動力となります。
例えば、顧客フィードバックを収集することで、顧客のニーズや嗜好を把握し、市場のトレンドを把握することができます。
企業はこのフィードバックを収集・分析することで、顧客の声を取り入れた製品やサービスの開発が可能となります。
効率的なマーケティング
CXを向上させると、顧客の満足度が高まり、口コミや友人・知人への紹介が増えます。
これにより、企業は広告やマーケティングにかかるコストを削減しつつ、効果的な顧客獲得が可能になります。
ポジティブな顧客体験は自然なプロモーションとなるため、新規顧客の獲得を助けます。
顧客体験価値(CX)を向上させる方法
顧客体験価値(CX)を向上させる方法は、おもに次の3つです。
- 顧客の段階を見極めて適切な施策を行う
- 一定の品質を確保したカスタマーサポートの提供
- 顧客のストレスを排除する
顧客の段階を見極めて適切な施策を行う
顧客体験価値(CX)を高めるためには、顧客の段階に合ったアプローチをするのが大切です。たとえば、認知(注目)段階の見込み顧客には、ブランドや商品に興味を持ってもらうために、広告の配信やプレゼントキャンペーンなどが有効です。
また、商品やサービスを購入した既存顧客には、アフターフォローを実施することで顧客体験価値(CX)が向上し、高評価のレビュー投稿やリピート購入といった行動につながるでしょう。
一定の品質を確保したカスタマーサポートの提供
Zendeskが消費者やビジネスリーダーを対象に行ったCXトレンドレポート2023年版によると、ネガティブな体験を1回した顧客のうち、半数もの人が競合他社に乗り換えると回答しています。
良質なカスタマーサポートによって、サブスクリプションの継続やリピート購入につながることも分かりました。
このように、カスタマーサポートの質は、顧客体験価値に直結しているといっても過言ではありません。顧客のニーズや意見を細かく分析し、顧客が求める品質のカスタマーサポートを提供することを心がけてみてください。
顧客のストレスを排除する
良質なカスタマーサポートの提供と同じく重要なのが、顧客にストレスを与えないことです。たとえば、ECサイトにおいて、顧客がストレスを感じやすい場面は次のとおりです。
- サイトが重い(ページがなかなか開かない)
- ポップアップウィンドウが何度も表示される
- 商品ページが閲覧しにくい(何度もスクロールする必要がある、商品ページから一覧ページに戻ると初期位置に戻ってしまうなど)
- FAQで疑問が解決できない、回答ページに辿り着けない
- カスタマーサポートにつながりにくい、回答が遅い
このような顧客のストレスを排除することで、顧客体験価値(CX)の向上が目指せるほか、CVR率や売上の向上にもつながるでしょう。
顧客体験価値(CX)の成功事例
ここからは、CXに取り組んで成功している企業をご紹介します。
スターバックス
コーヒーチェーン店の大手「スターバックス」では、コーヒーという商品の提供だけではなく、“ひとりひとりのお客様に誠実に向き合う”そしてひとつのコミュニティであるというミッションを掲げ、顧客体験価値を向上させています。
- 店内雰囲気、心地のいいBGM
- 店舗に訪れたお客様に「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」
- 接客スキル(紙コップにメッセージ、カスタムメニュー等)
- パッケージ等のデザイン性や季節限定商品
デザイン性なども含め他店と比べると大きな差別化になっています。
このようなサービスを提供することで顧客側は感動し「また来たい!」「なんだかとても良い気分」といった感覚的・情緒的な価値を感じます。
このようにして、スターバックスは顧客の心をつかみ、リピーターを増やすことに成功しています。
ソニー損保
自動車保険会社で大手のソニー損保では、経営活動において重要課題の1つは【CXの向上】が挙げられていました。
カスタマーサービス、事故対応サービス、インターネットサービス全てにおいて自社が提供する顧客体験を確認し、改善やレベル向上を図りました。
- 専用コミュニケーションサイト実施
- お客様の不満・ご意見→どのように改善したか公開
- 「検討します」「申し訳ございません」などのカテゴリーを制作し不可能な対応も丁寧に公開説明
- 質問箱
- サービス満足度を四半期ごとに更新・公開
- 保険の知恵袋
上記のように、CXの向上を図るために「お客様の声」に対する取り組みを実施。画像のようなご意見などをアンケート等で集め、真撃に耳を傾け積極的に企業活動に活かしました。
お客様とのコミュニケーションを図り、「お客様の声」に対する自社の姿勢を公開する特別コミュニケーションサイトまで運営しています。
ソニー損保のように、CXの向上の取り組みを行うことで顧客にとって、より一層快適かつ価値のある顧客体験やサービスが提供できます。
また、自動車保険市場14年1位という結果につながったのは、ダイレクト保険会社の特長を活かして顧客との信頼関係の構築、サービスの改善活動を行なったからでしょう。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリは、日本のフリマアプリ「メルカリ」を運営しています。
個人間の売買がインターネットで全て完結できるため誰でも出品や購入が手軽にできることが便利といわれています。
しかし、商品の包装・発送において手間がかかるオフラインでの作業がどうしても発生していまいます。そのため、利用者が増えない時期がありました。
ここでメルカリは、オフラインもCXの一部分と捉え、包装資材を一式揃えて「つつメルスポット」を郵便局などに設置するといった改善策を実施しました。
このように、オンライン・オフライン全てにおいてCXの一部と捉え改善・対策したことでアプリダウンロード数が3,500万ダウンロードを突破し多くのお客様に利用されるようになりました。
パナソニック
パナソニックは、2020年12月から「Panasonic Store Plus」のサービスを開始しました。
このサービスの特徴の一つが、月額利用で商品を気軽に試せるサブスクリプション型サービスです。
一部の商品ではお試し期間終了後に継続利用中に途中買取することもできます。また、安心保証が付いており、通常使用時の故障は企業が保証するため安心感があるのも特徴です。
「必要な期間だけ使いたい」現代の多様な消費スタイルや、顧客の「試してみたいけれど購入に踏み切れない」という不安に応えています。
ニトリ
ニトリでは、自宅にいながら実店舗にいるようなショッピングを楽しめる「バーチャルショールーム」を提供しています。
本サービスは2023年5月、目黒通り店をモデル店舗としてスタートしました。
店内はバーチャルで全方位360°の視点から自由に見て回ることができ、家具やインテリアの配置を確認できます。
さらに、気になる商品はその場で「ニトリネット」にアクセスして詳細を確認し、購入することも可能です。
スマートフォンやパソコンから手軽に利用できるので、公式サイトで確認してみてください。
ニトリはこの施策を通じて、自宅で理想の暮らしを具体的にイメージできる体験価値を提供するほか、時間の効率化やコーディネートに関する不安の解消といった顧客のニーズにも応えています。
丸亀製麺
丸亀製麺は、全店舗で「打ち立て・できたて」のうどんを提供することを基本理念としています。
讃岐の伝統を尊重し、「粉から作る」製法で店舗内で麺を打つこだわりや、麺職人が目の前でうどんを作るライブ感あふれる店内体験が特徴です。
この取り組みにより、顧客は本場讃岐の製麺所を訪れたような雰囲気を楽しめます。
さらに、店内で製麺の過程を直接確認できるため、食べ物が新鮮で丁寧に作られていることへの信頼感が生まれ、安心して食事を楽しめる環境を実現しています。
店内には湯気や音、香りなど五感を刺激する臨場感が広がり、食事を特別で記憶に残る体験へと昇華させています。
リッツ・カールトン
リッツ・カールトンは、企業理念「ゴールド・スタンダード」を基盤に、従業員一人ひとりに1日2,000ドルの決裁権を与えています。
この制度は、顧客体験を最優先に考え、状況に応じた迅速な対応を可能にする仕組みです。
従業員が上司の許可を待たず、自ら判断して行動できる環境を整えることで、顧客の期待を超えるサービスを提供しています。
リッツ・カールトンは、この取り組みによって顧客の多様なニーズに応え、感動的なホスピタリティを実現しました。
その結果、多くの人に特別な満足感を届けることに成功しています。
ANA
ANAは、利用前から利用後までの旅全体を一つの顧客体験と捉え、全社的に顧客情報をリアルタイムで共有できる「CXポータル」を開発しました。
このシステムは、各部門に分散していた顧客の好みや過去の利用履歴、運航情報を全社的に統合・共有するものです。
スタッフ同士の連携を円滑にし、お客様それぞれの状況やニーズに合わせた、よりきめ細やかなサービスの提供が可能になりました。
ANAは「CXポータル」を通じて、顧客の過去の利用履歴や好みに基づきリアルタイムで最適なサービスを提供することで、旅の全過程にわたる一体感と特別な満足感を生み出しています。
まとめ|事業成功の鍵は顧客体験価値にあり
顧客体験価値(CX)は、現代ビジネスにおいて重要性を増しています。
競争の激化や顧客の期待の変化、口コミとソーシャルメディアの影響などの要因から、企業は顧客満足度を向上させる必要性を感じています。
ブランドの信頼性の強化、顧客の生涯価値の向上、従業員満足度の向上、イノベーションの推進や効率的なマーケティングといった取り組みが、CX向上のために求められます。
こういった取り組みが、企業の持続的な成長と成功に不可欠な要素であり、その重要性は今後もますます高まっていくでしょう。